大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口地方裁判所徳山支部 昭和60年(ワ)80号 判決 1990年7月24日

第一事件原告(第一反訴事件被告)

杉町永三郎

ほか一名

第二事件原告(第二反訴事件被告)

富士火災海上保険株式会社

第一事件被告

畠中佐世子

(第二事件被告・第一反訴事件及び第二反訴事件原告)

主文

一  原告杉町永三郎及び同井原築炉工業株式会社の被告畠中佐世子に対する昭和五九年八月七日の原告杉町永三郎・被告畠中佐世子間の交通事故による損害賠償の存在しないことを確認する。

二  被告畠中佐世子の第一反訴事件請求をいずれも棄却する。

三  原告富士火災海上保険株式会社の被告畠中佐世子に対する昭和五九年八月七日午後三時四五分ころ山口県下松市大字末武中四三三の四池永方前で発生した交通事故による自家用自動車保険搭乗者傷害特約保険金支払債務は金一七万二五〇〇円を超えては存在しないことを確認する。

四  原告富士火災海上保険株式会社のその余の第二事件請求を棄却する。

五  原告富士火災海上保険株式会社は、被告畠中佐世子に対し、金一七万二五〇〇円を支払え。

六  被告畠中佐世子のその余の第二反訴事件請求を棄却する。

七  訴訟費用は、第一事件、第一反訴事件、第二事件、第二反訴事件を通じ、原告杉町永三郎及び同井原築炉工業株式会社と被告畠中佐世子との間においては、原告杉町永三郎及び同井原築炉工業株式会社に生じた費用全部と被告畠中佐世子に生じた費用の二分の一は被告畠中佐世子の負担とし、原告富士火災海上保険株式会社と被告畠中佐世子との間においては、原告富士火災海上保険株式会社に生じた費用と被告畠中佐世子に生じた費用の二分の一とを一〇分し、その一を原告富士火災海上保険株式会社の負担とし、その余を被告畠中佐世子の負担とする。

八  この判決は第五項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(第一事件)

一  請求の趣旨

1 主文一項と同旨

2 訴訟費用は被告畠中佐世子の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告杉町永三郎及び同井原築炉工業株式会社の第一事件請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告杉町永三郎及び同井原築炉工業株式会社の負担とする。

(第一反訴事件)

一  請求の趣旨

1 原告杉町永三郎及び同井原築炉工業株式会社両名は、各自、被告畠中佐世子に対し、金二六〇万円及びこれに対する昭和五九年八月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告杉町永三郎及び同井原築炉工業株式会社の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 主文二項と同旨

2 訴訟費用は、被告畠中佐世子の負担とする。

(第二事件)

一  請求の趣旨

1 原告富士火災海上保険株式会社の被告畠中佐世子に対する昭和五九年八月七日午後三時四五分ころ山口県下松市大字末武中四三三の四池永方前で発生した交通事故による自家用自動車保険搭乗者傷害特約保険金支払債務は存在しないことを確認する。

2 訴訟費用は被告畠中佐世子の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告富士火災海上保険株式会社の第二事件請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告富士火災海上保険株式会社の負担とする。

(第二反訴事件)

一  請求の趣旨

1 原告富士火災海上保険株式会社は、被告畠中佐世子に対し、金一三四万を支払え。

2 訴訟費用は原告富士火災海上保険株式会社の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告畠中佐世子の第二反訴事件請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告畠中佐世子の負担とする。

第二当事者の主張

(第一事件)

一  請求原因

1 事故の発生

(一) 日時 昭和五九年八月七日午後三時四五分ころ

(二) 場所 山口県下松市大字末武中四三三ノ四池永方前路上

(三) 事故車両 原告杉町永三郎(以下、「原告杉町」という。)運転の普通貨物自動車(山四四に一二一〇)と被告畠中佐世子(以下、「被告」という。)運転の軽四貨物自動車(山口四〇た七七七四)

(四) 態様 事故現場は、幅員三・一メートルの道路(以下、「A道路」という。)と幅員二・三メートルの道路(以下、「B道路」という。)が交差するT字型交差点である。原告杉町がA道路からB道路へと右折進行するに際し、交差点手前約二・三メートルあたりで減速し、交差点内に自動車前部を一部進入させたところ、被告畠中がB道路を左から右へ直進してきたので危険だと判断し、とつさに急ブレーキを踏んだところ、停止した原告杉町運転車両前部左角に被告運転車両前部右角が接触した。

(五) 結果 被告は右事故により頸椎捻挫の傷害を負つたと主張している。

2 原告杉町及び被告が本件事故により被つた各物損については、昭和五九年九月二六日原告杉町の過失七〇パーセント、被告の過失三〇パーセントの割合で示談が成立し、解決済みである。

3 原告杉町及び原告井原築炉工業株式会社(以下、「原告井原築炉工業」という。)は、被告に対し保険会社を通して少なくとも人的損害に対する賠償のために治療費として金二三〇万二八四〇円を支払済である。

4 被告は、原告杉町及びその使用者である原告井原築炉工業に対し、本件事故により被告の被つた人的損害は未だ填補されていないと主張している。

よつて、被告が本件事故により被つた人的損害は金二三〇万二八四〇円を上回らないから、原告杉町及び同井原築炉工業は被告に対する本件事故による被告に対する損害賠償債務は存在しないことの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実はすべて認める。

三  抗弁、抗弁に対する認否、再抗弁及び再抗弁に対する認否

後記第一反訴事件請求原因、同請求原因に対する認否、同抗弁及び同抗弁に対する認否記載のとおり

(第一反訴事件)

一  請求原因

1 交通事故の発生

事故の当事者、場所、態様は第一事件請求原因1記載のとおり

本件交通事故は、原告杉町が一旦停止して直進車両の有無を確認のうえ右折進行すべきであるにかかわらず、右注意義務を怠つた過失に基づくものであるから、原告杉町は民法七〇九条により、原告井原築炉工業は、右杉町運転車両を自己のため運行の用に供する者として自動車損害賠償法三条により、それぞれ右交通事故による損害賠償義務がある。

2 被告の損害

(一) 被告は右交通事故により頸椎捻挫の傷害を被り、今村整形外科に事故の翌々日から昭和六〇年二月三日まで入院(一七九日)、通院(実日数六六日)し、現在なお高取整形外科医院に通院中である。

(二) 逸失利益

被告は、主婦、事故当時満四二歳(昭和一三年三月二八日生)で、平均賃金額は、賃金センサス第一巻第一表によると、一日五九八五円、家事労働に従事できなかつた期間は、昭和五九年八月七日から昭和六〇年五月二四日までとして二九一日間、したがつて、一七四万一六三五円の得べかりし利益を喪失した。

(三) 慰謝料

右入、通院期間の慰謝料として一五〇万円が相当である。

(四) 入院雑費

一日一〇〇〇円として、一七万九〇〇〇円

(五) 弁護士費用

原告杉町及び原告井原築炉工業は、右請求につき債務不存在の訴を提起したので、被告は、第一事件及び第一反訴事件を被告代理人に委任し、手数料、報酬として三〇万円の支払いを約した。

よつて、被告は原告杉町及び原告井原築炉工業に対し、不法行為及び自動車損害賠償補償法三条に基づく損害賠償として、右損害額合計三七二万〇六三五円のうち金二六〇万円及びこれに対する本件不法行為の日である昭和五九年八月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。ただし、本件交通事故の発生については被告にも過失がある。

2 同2(一)の事実中、被告が事故の翌々日から今村整形外科に入院したことは認め、その余は知らない。

同二(二)の事実中、被告が事故当時四二歳であつたことは認め、その余は知らない。

同2(三)及び(四)は争う。

同2(五)の事実中、原告杉町及び原告井原築炉工業が債務不存在確認の訴を提起したこと、被告が第一事件及び第一反訴事件を被告代理人に委任したことは認め、その余は知らない。

三  抗弁

(過失相殺)

仮に、被告に本件事故により人的損害が発生したとしても、被告には右事故発生につき、次のとおり過失がある。

本件事故現場は見通しの悪い三差路交差点であり、しかも道路幅は、被告車両進行の方が原告杉町車両が進行してきた道路よりも狭い。このような場所を車両で進行する際、被告としても、右方から進入して来る車両との衝突を回避すべく徐行して運転する義務があるにもかかわらず、これを怠り、漫然時速約二〇キロメートルで直進を続けて本件事故を惹起したことは、被告の過失である。

物損については、当事者間で、原告七〇パーセント、被告三〇パーセントの過失割合が合意され示談が成立したが、人損についても少なくとも被告に三〇パーセント以上の割合で過失が存在するというべきである。

四 抗弁に対する認否

被告に過失はなく過失相殺の主張は争う。

(第二事件)

一  請求原因

1 保険契約の締結

原告富士火災海上保険株式会社(以下、「原告富士火災」という。)と被告とは、昭和五九年七月二九日、左記保険契約を締結した。

(一) 保険の種類 自家用自動車保険

(二) 契約車両 山口四〇た七七七四

(三) 保険期間 昭和五九年七月三〇日から一年間

(四) 保険金額

(1) 対人賠償金五〇〇〇万円

(2) 対物賠償金一〇〇万円

(3) 搭乗者傷害金五〇〇万円

被保険自動車に搭乗中の者が、運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故により体に傷害を被つたときは、医療保険金として

<1> 入院中は、一日保険金額の一〇〇〇分の一・五の割合による金額金七五〇〇円

<2> 通院中(平常の生活もしくは業務に従事することができる程度に至るまで)は、一日保険金額の一〇〇〇分の一の割合による金額金五〇〇〇円

ただし、被害の日から一八〇日をもつて限度とする。

2 事故の発生

(一) 日時場所 昭和五九年八月七日午後三時四五分ころ、山口県下松市大字末武中四三三の四池永方前

(二) 加害車両 山四四に一二一〇

運転車 原告杉町

(三) 被害車両 山口四〇た七七七四

運転者 被告(旧姓金本佐世子)

(四) 事故の態様 前記日時場所において、加害車両と被害車両が出会い頭に衝突した。

3 保険金の請求

被告は、右交通事故により頸椎捻挫の病名で、山口県徳山市久米三二〇五の二今村整形外科で昭和五九年八月八日通院、同月九日から昭和六〇年二月三日まで入院(一七九日間)、以後通院加療を受けたものとして、被告は原告富士火災に対し、昭和六〇年二月七日保険金の請求手続をなした。

被告の原告富士火災に対する請求額は金一三四万円である。

よつて、被告の主張する頸椎捻挫は本件事故と因果関係がないので、原告は被告に対する本件交通事故による自家用自動車保険搭乗者傷害特約保険金支払業務は存在しないことの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実はすべて認める。

三  抗弁及び抗弁に対する認否

後記第二反訴事件請求原因及び同請求原因に対する認否記載のとおり

(第二反訴事件)

一  請求原因

1 被告・原告富士火災間の保険契約の内容、事故発生の状況は、第二事件請求原因1、2のとおり。

2 被告は、右事故により頸椎捻挫の傷害を被り、今村整形外科に事故時から昭和六〇年五月二四日まで入、通院(入院一七九日、通院六六日)し、現在は高取整形外科医院に通院中である。

よつて、被告は原告富士火災に対し、前記保険契約に基づき入院一七九日についての医療保険金一三四万二五〇〇円のうち一三四万円の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の真実中、事故により頸椎捻挫の傷害を被つたとの主張は否認し、その余は知らない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

(第一事件及び第一反訴事件について)

一  第一事件請求原因事実はすべて当事者間に争いがない。

二  そこで第一事件抗弁(第一反訴事件請求原因)について判断することとする。

(一)  昭和五九年八月七日午後三時四五分ころ、山口県下松市大字末武中四三三ノ四池永方前T字型交差点において、原告杉町運転の普通貨物自動車が右折進行するに際し、交差点手前約二・三メートルあたりで減速し、交差点内に自動車前部を一部進入させたところ、被告が左から右へ直進してきたので、とつさに急ブレーキを踏んだところ、停止した原告杉町運転車両前部左角に被告運転車両前部右角が接触するという交通事故が発生したこと及び右交通事故は、原告杉町が一旦停止して直進車両の有無を確認のうえ右折進行すべき注意義務を怠つた過失に基づくもので、原告杉町は民法七〇九条により、原告井原築炉工業は、原告杉町運転車両を自己のため運行の用に供する者として自動車損害賠償補償法三条により、それぞれ右交通事故による被告の損害を賠償する義務があることは当事者間に争いがない。

(二)  次に本件交通事故による被告の損害について判断する。

(1) 証人今村貞勝の証言及び被告本人尋問の結果並びにいずれも成立に争いのない甲第三号証、第一三号証の一ないし七、第一四号証の一ないし七、第一八号証の一ないし三、第二一号証の一ないし四、第二二号証の一ないし四及び乙第一号証によれば次の事実が認める。

<1> 被告は、本件事故の翌日である昭和五九年八月八日今村整形外科で診察を受け、頸椎の両側の圧痛、吐き気、頸椎の四番と五番が角状になつている、耳なり、肩から背中にかけ首を動かすことによつて痛みが増幅する等の所見により頸椎捻挫、約二週間くらいの安静加療を要する見込みとの診断を受けたこと

<2> 同整形外科医師今村貞勝の指示により、その翌日の同月九日から入院し(この事実は当事者間に争いがない。)、昭和六〇年二月三日まで入院し、以後同年五月二四日まで同整形外科に通院し、同日症状固定の診断を受けたこと

<3> 被告は、入院後の昭和五九年八月二六日、最初の外出をし、その後毎週一回程度概ね定期的に外出あるいは外泊していること

以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(2) また、証人小嶋亨の証言、原告杉町及び被告各本人尋問の結果並びにいずれも成立に争いのない甲第二号証、第四号証、第五号証、第七号証、前記証人小嶋の証言により真正に成立したものと認められる甲第一七号証、証人岡野博の証言により真正に成立したものと認められる甲第二七号証、弁論の全趣旨によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第六号証、第八号証の一及び二、第九号証、第一〇号証、第一一号証の一ないし三、第一二号証、第一九号証、前掲甲第二一号証の一ないし四、第二二号証の一ないし四によれば、次の事実が認められる。

<1> 本件事故は、T字型交差点において、原告杉町車両が右折進行しようと、被告車両が直進進行してくる車線に進入し、停止したところへ、その左前側面部に、被告車両右前端が時速約二〇キロメートルで衝突したものであること

<2> 本件事故で被告車両に生じた衝撃加速度は1G程度あること

<3> 右程度の衝撃加速度では、緊張状態にある場合には通常頸椎捻挫は発生しないと考えられること

<4> 昭和五九年八月八日撮影の被告のレントゲン写真には、生理的前弯消失、第四、第五頸椎に局所的角状後弯、頸椎可動性減少が認められるが、頸椎の中間位における生理的前弯消失は健康者の約四〇パーセントに認められ、局所的角状後弯については、椎体前面と咽頭後壁との距離は正常であり、また昭和六〇年三月二五日撮影のレントゲン写真(症状固定診断時)においても同様に認められることから生来のものと考えられること

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(3) そこで、以上認定した事実により、本件事故と被告主張の頸椎捻挫の発生との因果関係について判断する。

なるほど、前記(2)で認定した事実によれば、本件事故によつては、被告主張の頸椎捻挫は発生しえないかのようであるが、前掲証人小嶋の証言、甲第一七号証及び第一九号証の同旨の結論は、限られた資料をもとにしており、また十分な統計的資料に基づく結論とまでは言えないうえに、本件事故の際、被告が事故直前に事故に対する防御態勢をとつたことを前提としているのであつて、前掲今村医師の頸椎捻挫の診断に疑いを差し挟むべき資料とまでは言えないと考える。確かに、右診断の根拠となった所見には他覚的所見はほとんどなく自覚的所見に大きく依存しているのであるが、このことのみをもって右診断に疑いを入れなければならない事情であると考えることはできないことはもちろんのことである。

以上、本件事故により、被告に頸椎捻挫が発生したものであり、本件事故との間に因果関係があるものと認める。

また、本件頸椎捻挫について入院治療が必要であるかないかについて考えてみるに、その必要性の有無については、第一次的に診察した医師の判断が尊重されるべきことはもちろんであり、本件において右判断が誤りであつたと認めるに足りる証拠はない。事故直後に被告が、原告杉町に対し、けがもなく大丈夫である旨述べたとの証拠(前掲甲第二号証中の原告杉町の供述調書)が存するのであるが、これを事故直後のものであり、被告自身も本件事故について自分にも過失があつた旨考えたうえで述べたことであると考えられるから、右の点を重視することはできない。

しかし、前記(1)、(2)で認定した事実、特に本件事故による衝撃はそれほど強いものではなかつたこと、他覚的所見がほとんどないこと、被告は昭和五九年八月二六日、最初の外出をし、その後毎週一回程度概ね定期的に外出あるいは外泊していることを総合して考えると、本件の頸椎捻挫の治療としては昭和五九年八月中の入院治療が相当の治療であると考えるべきであり、その範囲で本件事故と相当因果関係があると認めるのが相当である。

(4) そこで本件事故による被告の損害を算定することとする。

<1> 治療費

前掲甲第一四号証の一によれば、本件事故後、昭和五九年八月三一日までに要した治療費は金三四万二三八〇円であることが認められる。

<2> 逸失利益

被告本人尋問の結果によれば、被告は本件事故当時満四二歳の主婦であることが認められるところ(年齢については当事者間に争いがない。)、昭和五九年度賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計男女別年令階級別平均賃金によると、四〇歳から四四歳までの女子労働者の平均賃金は年間金二二七万三七〇〇円であり、これを一日に換算すると金六二二九円(小数点以下切捨て)となる。したがつて、家事労働に従事できなかつた期間は前記のとおり、昭和五九年八月七日から同月三一日までの二五日間と考えるべきであるから、その間の得べかりし利益は金一五万五七二五円となる。

<3> 入院雑費

入院雑費としては一日金一〇〇〇円が相当であり、入院期間(昭和五九年八月九日から同月三一日まで)二三日間として、金二万三〇〇〇円となる。

以上合計金五二万一一〇五円となるが、前掲各証拠によれば、本件事故の発生場所は見通しの悪いT字型交差点であり、被告の前方注視義務を怠つた過失が本件事故発生に原因を与えているものと認められるから、この事情を考えると、右損害について三割の過失相殺をするのが相当である。

したがつて、以上の損害のうち、原告杉町らが支払うべき損害額は、金三六万四七七三円(小数点以下切捨て。)となる。

<4> 慰謝料

本件事故の態様及び治療経過等を考慮すると、本件事故による慰謝料としては金五〇万円が相当である。

以上号計すると原告杉町らが被告に本件交通事故について損害賠償すべき金額は、金八六万四七七三円ということになるが、原告杉町らが被告に対し、既に金二三〇万二八四〇円を支払つていることは当事者間に争いがなく、本件においては被告に生じた弁護士費用は原告杉町らに請求しうるものではないから、原告杉町らが被告に支払うべき債務は存在しないこととなる。

三  したがつて、原告杉町らの第一事件請求は理由があるから認容すべきであり、被告の第一反訴事件請求は理由がないからいずれも棄却すべきである。

(第二事件及び第二反訴事件について)

一  第二事件請求原因はすべて当事者間に争いがない。

二  そこで第二事件抗弁(第二反訴事件請求原因)について判断する。

本件事故により被告が頸椎捻挫の傷害を負い、その治療として昭和五九年八月九日から同月三一日までの二三日間の入院治療が必要であり、その限度で本件事故との相当因果関係が認められることは、(第一事件及び第一反訴事件について)二において述べたとおりである。

すると、原告富士火災は、被告に対し、本件保険契約に基づく医療保険金として入院二三日間に対する金一七万二五〇〇円の支払義務があることとなる。

三  したがつて、原告富士火災の第二事件請求は金一七万二五〇〇円を超えては債務が存在しないという限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却すべきであり、被告の第二反事件請求は、金一七万二五〇〇円の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。

(結論)

以上によれば、原告杉町らの第一事件請求は理由があるから認容し、被告の第一反訴事件請求は理由がないからいずれも棄却し、原告富士火災の第二事件請求は金一七万二五〇〇円を超えては債務が存在しないという限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、被告の第二反訴事件請求は金一七万二五〇〇円の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条本文、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉波佳希)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例